ファミレスにて・・ | 炎の人生劇場

ファミレスにて・・

ある晩の出来事・・・

昨夜、久しぶりに集まった友人と私を入れた4人で近所のファミレスへ晩飯を食べに行きました。
夕食時を過ぎているせいか、店内はガラガラです。
私たちは真ん中の席に陣取り、注文は全員ハンバーグの和風セット。
気の合う仲間というのはいいもんです。

みんなは近況を語り合い、しばしの雑談タイムへと突入。
しばらくの間、あいつが結婚したとか、誰々が仕事やめたらしいとか、他愛も無い話で盛り上がっていると、ウエイトレスさんが料理を運んでまいりました。
その直後事件は起こりました。

みんなよっぽど腹を空かせていたのか、テーブルにハンバーグが並ぶなり、がっつく様に食べております。
私はそんな彼らの有様を見て、すかさず「おいおい、もっと落ち着いて食えよ。料理は逃げやしないんだから。」と大人の貫禄です。
そんな忠告など耳に入らない様子の彼らをよそに、私はそっと割り箸を手に取ります。
まるで貴婦人です。
大人の私は、いきなりハンバーグに箸を入れるような無粋な真似はいたしません。
紳士たる者、乾いた唇を味噌汁で潤し、その後メインに移るのがシェフへの礼儀というもの。
私はおもむろに茶碗を手に取ると、ゆっくりと味噌汁を口に運びます。
味噌の風味がフワリと舌に舞い降ります。
私は込み上げる衝動を抑え切れず、ほんの一口で味噌汁を飲み干してしまいました。
さぁ、お次はメインのハンバー・・・・・ん?


ちょっと待って下さい。

茶碗いっぱいの熱い味噌汁を、たった一口で飲み干した経験は未だかつてありません。
軽いサプライズです。
私は少し不安になり、味噌汁茶碗を覗いてみましたが、確かに底まで飲んでおります。
しかし、よく見ると何か変です。


この茶碗、底が異常に浅いのです。
茶碗の上げ底など聞いた事ありません。
さらに注意深く見てみると謎はすぐに解けました。
なんと・・・・

上げ底ではなく、フタに味噌汁を注いでいやがるのです。

これはいったい何の冗談でしょう?
つまり、茶碗の上にフタを裏返しに置き、その上に味噌汁を注いで、さらにその上からフタをして出してきたのです。
当然、味噌汁の量はわずかしか無く、一口で飲み干すのはあたり前です。
全員同じ物を頼んでいるのに、なぜ私だけこの仕打ちなんでしょう?

まさかこれは新手のドッキリなのでしょうか?
どこかに隠しカメラが仕込んであり、私の驚く表情をつぶさに狙っているとしたら??
そう言えば、私の席の横に置いてある観葉植物の植木、なんか怪しいです。
いや待て、これは店ぐるみの陰謀では!?
この『ガ○ト』、表向きは単なるファミレスを装ってますが、実は政府の重要な拠点になっているのではないでしょうか!?

普段は安価な食事を提供してくれる憩いの場である一方、客の会話を漏らさず盗聴し、危険な思想の持ち主や反国家的な人間を排除する政府施設かも知れません。

そう言えばさっきのウエイトレス、ユニフォームのポケットが微妙にふくらんでいました。
もしや仕込み拳銃でしょうか!?

時折ウエイトレスは、笑顔で私の隣を横切って行きます。

不気味な笑みです。

彼女は恐らく、訓練を受けた女スパイでしょう。

そうなると、この味噌汁茶碗は敵の罠かも知れません。
中のフタを取った瞬間、爆発する可能性もあります。
紳士たる者、落ち着いている場合ではありません。

周囲の人間を巻き込むわけには行かない...。

言い様の無い焦燥感に駆られた私は、味噌汁茶碗に触れないよう細心の注意を払いながら、ハンバーグ・白飯を片付け極度の緊張の中、友人たちの食べ終わりを待ちました。
と、その時です。

「お冷のおかわりはいかがですか?」

傍らに立つのは、さきほどの女スパイです。
茶碗爆破に失敗した彼女に残された道は、もはや一つしかありません。


で殺す気です。


恐らく彼女が今手にしている水は致死性の高い毒物が混入しているはずです。
そんな物、とっくにこちらはお見通しであります。
誰も飲むはずありません。

「あぁ、ちょうどノド乾いてたんだよねー」


飲んでます。
アホが一人飲んでます。
なんという事でしょう。
彼につられるように、次々と友人たちは注がれた水を飲んでいきます。

もうどうする事も出来ません。
私は急用を思い出したと偽り、皆にここを早く出ようと駆り立てます。
一刻も早く脱出しなければなりません!!

私は、政府の陰謀に屈した自分を責めました。
強大な国家相手に、個人の力など無に等しいという現実をまざまざと見せつけられました。
完敗です。
敗北を認めざるを得ません。

しかし私もプロのはしくれ。
意地という物があります。
例えこの命を削ろうとも、最後に一矢報いてやる!
そんな覚悟で私はレジカウンターという最終決戦の場へと歩を進めました。


女スパイ「お会計は別々でよろしかったですか??」
「はい!!」
女スパイ「お会計、690円になります」
1万円からお願いします!!」

やってやりました。

小銭の請求に対して、1万円札で攻撃してやりました。
女スパイは、当然細かい釣り銭を出すハメになったのです。

勝ちました。