体育祭の怪
みなさんには体育祭に、どんな思い出がありますか?
汗だくになりながらも、クラスメートと協力し合ったり、時には他チームの生徒と競い合ったり。
一口に『体育祭』と言っても色んな競技があり、それぞれ大いに盛り上がる事と思います。
もちろん、僕が通った高校も必要以上に盛り上がりを毎年見せていました。
その理由は以前にも書いた んですが、僕らの学校は男子比率に対して、
女子0.09%という変わった共学でしたので、それはもう体育祭なんか超軍隊ノリなわけなんです。
僕は普通科に属していましたが、工業科の生徒さんらは日ごろ溜まりに溜まった何かを発散すべく、オリから脱走したナウマン象の様に、とてつもなくハッスルするのです。
クラスマッチの柔道大会なんか、毎回骨折などの重傷者が普通科から続出するので、僕らは柔道の授業では、投げる練習ではなく、
投げられる練習という面白い指導をみっちり仕込まれたものです。
おかげで、その年の大会ではあちらこちらで投げの見本のようにキレイな技が炸裂しておりました。
当然、クラスマッチごときでこれだけのテンションですから、規模の大きな体育祭ともなると、工業科の方々の精神状態は容易に想像出来るというものです。
○普段より、その鬼度を増したソリコミ
○学校のジャージの背中に描かれた昇り竜(ウナギ犬似)
○当日の為だけに乗り付けた、マンション駐車場に隠された原付
恐ろしい興奮ぶりです。
前述した通り、当校のバカっぷりが露呈される一大イベントが幕を開けたのですが、僕らが3年生の年、問題の体育祭で事件が起こりました。
歴史的事件です。
以下に詳細を記します。
その年の体育祭、執行部の粋な計らいで、ある種目が試験的に導入されました。
その名も『ブロック選抜リフティング競技』
※概要
Jリーグ元年でもあった1993年、にわかにサッカー熱が日本中を席巻しようとしていた世論の後押しを受け、執行部が体育祭に投入した地雷的競技。ただひたすらリフティングの連続回数を競うという、ある意味職人気質を要する地味な戦い。またはその有り様。
騎馬戦やブロック対抗リレーなどの花形競技を相手に、まるで身を潜める様に静かに大会プログラムに組み込まれた謎の戦い。
現時点で内容未知数のこの競技に誰しもマユをひそめました。
しかし生徒たちは僕を含め、その隠されたポテンシャルに気付いてはいませんでした。
まさに、神のみぞ知る恐ろしい事態を招く事になろうとは.....。
いつもの校長の長い挨拶の後、大会は滞りなく始まりました。
予想通り、工業科の皆さんは血気盛んといった様子です。
僕の所属する普通科大隊白ブロック。
同じく普通科の生徒のみで結成された青・黄色ブロック。
そしてコマンドー機械化部隊の赤ブロック
大方の予想通り、現在までの得点数は白・青・黄が横並びに対して、赤がダントツの1位。
例年通り、誰もがこのまま工業科率いる赤ブロックの独走優勝と信じて疑いませんでした。
体育祭ブロック優勝は、長年のあいだ工業科のみなさんが守ってきた伝統だったのです。
ところが!!
事態は急転直下の様相を見せます。
そうです、次の競技である、あの『ブロック選抜リフティング戦』が始まろうとしていたのです・・・。
目を閉じれば、数週間前に話し合われたブロック別の競技出場選手の決定集会を思い出します。
他の競技に出場する選手が順調に決まっていくなか、なかなか決まらない『リフティング戦』。
未知の種目であり、個人戦というプレッシャー必至の状況を前に、誰も希望者がいません。
ブロック長が業を煮やし、クジ引きで決めようと提起した矢先、一つの勇気ある手が高々と挙がりました。
どよめきの中みんなの視線の先に映ったのは、一人の小柄な少年でした。
ブロック長の、「やってくれるか!?」の問いに元気良く答えるのは、つい最近まで中学生だったまだあどけなさの残る1年生の田中くん(仮名)でした。
3度のメシよりサッカーが好きだというにも関わらず、本校にサッカー部が無い事を入学後に知ったという若干香ばしい田中くん(仮名)
しかし、あなどる事無かれ、何かの大会で2位という輝かしい実力の持ち主であります。
この時、皆一様に、早めに『リフティング戦』の選手が決まって良かったなどと安堵していましたが、この田中くん(仮名)を選抜したことが、後に起こる悲劇を招こうとは誰が気付いたでしょう・・・。
目の前に、各ブロックを代表するリフティング要因が居並びます。
運営席より、今大会初めての競技という旨が説明されると、選手たちは1歩前に踏み出し、サッカーボールを用意しました。
ボールを手に持つ者、地面に置いて待機する者、それぞれがスタートに備えます。
田中くん(仮名)はどうでしょう?
頭にボールを乗せたままスタートを待ってます。
ヤル気満々です。
「よーい、スタート!!」
大きな掛け声とともに、いよいよ競技スタートです。
各代表の4人、いずれも軽快なスタートと思いきや、青・黄の2人は早々と落球してしまい戦列を離脱。
赤の代表のゴツイ選手はなんとか健闘していますが、バランスが悪いのか、左に右にとボールが暴れていつ落球してもおかしくありません。
それにくらべて田中くん(仮名)の凄さと言ったら!
CMハウスバーモントカレーの小野選手も真っ青の妙技を次々に繰り出しております。
時には両足を交互に、時には頭のテッペンでボールを止めたり、そのまま首の後ろに移動させたりと、
まさに『リフティングの申し子』と言わんばかりの華麗な球さばきを披露しています。
会場に居合わせた人々が驚きの表情を見せる中、突然アナウンスの声が場内に響きました。
「リフティング回数をそのまま得点とします」
えぇぇぇぇぇ!?(゚ω゚; 彡 ;゚ω゚)
場内、割れんばかりの歓声(一部悲鳴)
さぁ、大変な事態になってまいりました。
この時、初めてみんなは気付いたのです、この競技の恐ろしさを。
回数=得点→回数によっては大量得点
この無謀とも言える取り決めを選手が事前に知っていたかどうかは分かりませんが、アナウンス直後、赤の選手は動揺したのか落球してしまい、大地を殴打しながら悔しがっていました。
と同時に、フィールドは残された田中くん(仮名)の一人舞台。
一向に落球の気配はありません。
それどころか、技の多彩さが増えた感さえあります。
よく考えてみると、選手決めの際、誰かの推薦、もしくは指名などを受けたわけではなく、彼は自分の意思で立候補したのです。
選手に決定した時の、あの笑顔・・・。
田中くん(仮名)・・・あきらかに目立ちたがり屋です。
なんという事でしょう。
彼はむしろ、この大舞台を楽しんでいるのです。
自分の得意なこの『リフティング』という手段を使って、自己表現の頂点に登りつめようという魂胆なのです。
次第に増えていく得点・・・。
ふと、赤ブロックの方に目をやると、
殺意にも似た怒りのオーラを臨界点突破の勢いで放出する子供たちの姿が!!(((( ;゚д゚)))
そんな事はお構いなしといった様子で、田中少年は得点を積み重ねてゆきます。
もう、彼の姿が日向小次郎に見えてきました。
まだ大会前半にも関わらず、もしこのまま大量得点でもされた日には、白ブロックの優勝当確という事態を招いてしまいます。
そうなれば当然、怒りに燃えた赤ブロックの子供たちが黙っているはずはありません。
血の大会2日目が始まってしまいます。
そうした緊急事態を避けるべく、白ブロックは団長以下一丸となって田中少年に叫びます。
「おーい!もうやめてくれー!!」
そんな悲鳴にも似た白ブロックのみんなの叫びに、田中くん(仮名)、
笑顔でうなずいてます。
さすが田中くん、ただのバカじゃございません、
歓声と勘違いしております。
かくして、異様な熱気と興奮に満ちた『ブロック選抜リフティング戦』は、田中(仮名)選手の疲労による落球で幕を閉じました。
青・・・・・・・・15点
黄・・・・・・・・23点
赤・・・・・・・・57点
白・・・・・・・・987点 (´Д`lll)
白ブロック 優勝
大会は午後の種目を残して、優勝ブロックが決定してしまうという前代未聞の結果となりました。
ブロック長が泣いていました。
違う意味で。
その後、田中くん(仮名)がどうなったかは知りませんが、それ以来僕は学校で見た事はありません。
みなさんも体育祭は楽しくハッスルしましょうねぇ
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