肝だめし①
あんなに暑かった夏も、お盆を過ぎたあたりから、時折涼しげな風に乗って秋の気配を運んで来る様な福岡の今日この頃ですが、みなさんいかがお過ごしでしょうか?
中には、忘れられない思い出を作られた方もいらっしゃるかも知れません。
もちろん、僕にも忘れられない夏の思い出があります。
それは、『肝だめし』です。
柳の陰から貞子がゆらり・・・なんてのも、お化け屋敷ではありがちですが、僕のケースはそんな生易しいもんじゃございません。
『ガチ・心霊スポット巡り』であります。
女の子の「キャー!恐ぁーい!」なんて甘えた声などとは無縁の、男たちによる、男たちのためのマジ根性試し。
漆黒の闇の中、祟りや呪いなどオカルトないかなる障壁があろうとも、男たちは突き進むのみ。
そこに霊がいる限り。
なんともバチ当たりな企画でありますが、ドライブの理由に貪欲な、ちょうど自動車の運転免許を取得したばかりの19歳たちには格好のミッションだったわけです。
しかし、そこは当然、僕を含めたアホ軍団。
ただじゃ終わりません。
ある意味、霊の存在よりショッキングな体験の数々・・・。
さぁ、バカワールドへどうぞ。
~その①~
その日は昼間から、どんよりとした雲が厚く空を塗りつぶし、生暖かい風が全身の毛を舐めるように通り抜ける不気味な日でした。
不穏なたたずまいの街の雰囲気に一抹の不安を感じつつも、以前から兼ねてより予定されていた、『某廃墟訪問の旅』決行の深夜に向け、僕は気合いを入れなおしていました。
ここ最近の僕ら地元連中は、念願の免許を手に入れ毎晩のように深夜のドライブを敢行していたわけですが、ただあても無く車を走らせているだけでは次第に飽きが来るという事で、いつのまにか不気味なスポットを各自探して来ては、仲間内で訪問しておりました。
今夜向かうその廃墟も、仲間の誰かが人伝いに聞いた場所でして、廃棄され現在は廃屋になってしまった、そのいかにもというレストランに、みんな胸を踊らせておりました。
僕は目が踊ってましたが。
いつものように親が寝静まったころ、そっと玄関から抜け出し、家の前で迎えの車を待ちます。
タバコを吹かしながらしばらく待っていると、遠くからアメ車の様なエキゾーストヒートを響かせて、友人の日産ローレルがやってきます。
さっそく車内に乗り込み、道中しばし各自が気合い度談義であります。
「廃墟?楽勝やろ!」
「ただの潰れたレストランだしね!」
「そうそう!幽霊なんてねぇ笑」
「ハハハ、オレ、数珠持ってきたしね!」
などとのたまい、若干ビビりを匂わせているのは、香ばしさでは群を抜いていたYちゃんです。
このYちゃん、頻繁にアホ発言・行動を繰り返し、周囲を爆笑の渦に巻き込んでいた素敵なヤツなんですが、学力は抜群に良く、高校は地元でも有名な進学校で、後に国立大に進むという偉業を成し遂げる事になります。
要は、頭はいいが、知恵がない。
そんな彼が、心霊スポットに赴いて事件が起こらないはずがないのです。
一向が向かうは、地元の走り屋の間でドリフトポイントとして有名な三瀬峠という山道沿いの一角にたたずむ不気味な廃レストラン。
通称『チロリン村』
なぜこんな名称になったのかは未だに知りませんが、僕ら地元の人間ならば、かの『犬鳴き峠』クラスにも肩を並べるメジャーな心霊スポットでした。
何でも、この『チロリン村』には地下へ通ずる階段があり、それを降り切った先の扉を開くと・・・
出るらしいという噂でした。
程なくして、目的の『チロリン村』に到着。
辺りはうっそうと草木が生い茂り、朽ち果てたボロボロの建物が闇とともに横たわっていました。
びびる一向。
「うわぁ・・・マジ恐い・・・。」
「これがウワサの・・・。」
「マジでなんか居そうやなぁ・・・。」
Yちゃん「え!?猫とか!?」
Yちゃん、目的を分かっているのでしょうか?
いまいち空気の読めていないYちゃんを尻目に、みんなはさっそく持ってきた懐中電灯を手に、『チロリン村』の正面に整列します。
「いいや?びびったヤツ負けね!」
負けの定義がこれほど分かりにくい戦いもありませんが、そこは待った無しのローカルテイスト。
皆、一様に真剣です。
「誰がびびるかよ!!」
「かかって来いやぁ!」
Yちゃん「数珠が無い!!?」
護身用に携帯していた数珠を無くしたとうろたえるYちゃん。
勝負はもうついているような・・・(;´Д`)
しかし、まさかこれが、その後Yちゃんに襲いかかる悪夢の前兆だったとは誰も気づいていませんでした・・・。
僕を含めた4人は、身を寄せ合うようにしっかりと固まり、ゆっくりと『チロリン村』へと進入を開始しました。
庭内にはなぜか数台の原型を留めていない車が横たわり、まるで僕らを室内へと手招きしているようです。
腐りきった壁や天井には大小無数の落書きが広がっています。
書いてある内容は、取るに足らないくだらない文言ばかりでしたが、時より懐中電灯の限られた光に照らされ不気味に映っていました。
もはやレストランの面影はそこには無く、ただただ荒れ果てた廃屋に、一同緊張を隠せません。
「うわぁ・・・きっついなぁ・・・。」
「なんか今にも出そうやなぁ・・・。」
「やべぇ・・・これはヤバイって・・・。」
Yちゃん「なんか右肩が重い・・・。」
Yちゃんの発言に、皆いっせいに凍りつきます。
「お前!シャレにならんって!」
「マジでやめろって・・・!」
「肩こりって事にしとけって!(*゚Д`;)」
極限状態の中、突然のYちゃんの燃料投下に皆の動揺は一気に頂点まで昇りつめます。
さっきの勝負はどうなったんでしょう?
Yちゃんの優勝でしょうか。
一同しばらく石化していましたが、なんとか探索を再開。
1階付近は一通り巡回を終え、一時の達成感に安堵の様子。
「ふぅ・・まぁ楽勝やったな!」
「やっぱ幽霊なんておらんって!」
「そうそう!ハハハ!」
Yちゃん「なんか右肩が・・・。」
3人→(((( ;゚д゚)))
「お前!またそんな事言って!」
「わざとか!?わざとなのか!?」
「あぁ、あ、あれたい!漢字の書きすぎたい!」
Yちゃんの発言に、いたく混乱する子供たち。
いったん外に出ようとなり、作戦会議です。
「ねぇ・・・アレ、どうする?」
「アレ、かぁ・・・。」
「うーん・・・アレ、ねぇ・・・。」
Yちゃん「あら!?右肩治った!」
3人「はぁ・・・。(;´Д`)」
みんなが言う『アレ』とは、さきに述べた『チロリン村』最大の暗部、『地下への階段』であります。
ここを進まずして、『チロリン村』は語れない、地下室へ行かないなら『チロリン村』へ行った事にはならないのです。
4人は白熱した議論を重ねた結果、やはり地下は避けられないという事になり、いよいよ最終局面へと展開を迎えます。
「でも大丈夫かなぁ・・・。」
「ここからはシャレでは済まんけんねぇ・・・。」
「もしホントに居たら・・・。」
Yちゃん「幽霊おったらウケるね!(゚∀゚)」
Yちゃん、忌々しい右肩の違和感が取れ、何気に浮かれております。
「なら、お前が先頭に行けよ!!(; ̄□ ̄)」
誰かの煽りにも何食わぬ顔で「いいよ!」とYちゃん。
今日はなんだか輝いて見えます。
そんなこんなで、一同はYちゃんを先頭にとうとう地下への階段に。
入り口にも増して、たくさんの生い茂る草木をかき分け、階段の前までやってきました。
暗黒の闇に誘うように、地下への階段は大きな口を広げています。
みんなは決心を固めました。
「よし!行こう!!」
Yちゃん、いつもの香りはみじんも感じさせません。
彼は『恐怖』という感情を忘れてしまったように、雄弁に歩を進めています。
どうやら真の優勝者は、やはりこの男だったようです。
水曜スペシャルの川口隊長も真っ青であります。
と、その時でした。
Yちゃん「あっ!?」
Yちゃんの悲鳴にも似た叫び声の瞬間、彼の姿は忽然と僕らの前から消え失せてしまったのです!!
驚く3人。(゚ω゚; 彡 ;゚ω゚)
「おらんごとなった(消えてしまった)!?」
誰かが悲痛に叫びます。
混乱と動揺は、次第に極度の恐怖となって3人を包み込みはじめます。
「ど、ど、どうなった今!?」
「え!?なんで!?」
「き・・消えた・・・。」
やはり祟りが起こったのでしょうか!?
面白半分に眠りを邪魔された霊の怒りを買ってしまったのか!?
「うそやろ!?あいつどこ行った!?」
「バチが当たったんや!バチやぁぁ!!」
「Yちゃぁぁぁん!!」
Yちゃん「はぁーい!(*`Д´)」
3人は思わず顔を見合わせました。
消えてしまったはずのYちゃんの返事がどこからか聞こえたのです。
もしや、霊界へと旅立ってしまった自分と道連れに、僕らを逃がすまいと引きずり込もうとしているのか!?
戦慄が駆け抜けます。
「うぉぉぉぉ!!?」
「ひゃぁぁぁ!!?」
「ゆゆゆ、許してくれぇぇ!!」
3人は恐怖のあまり、もうどうしていいかわからずただただ叫ぶばかりです。
Yちゃん・・・あなたはもう僕らとは違う異世界の人・・・。
アーカイブ星で元気にお達者で・・・
Yちゃん「ざけんなゴルァ!(*`Д´)」
え!?(゚Д゚)
Yちゃん「下!下!したぁぁぁ!!(`Д´)」
しきりに『下』と叫ぶ過去の人。
3人は聞こえるまま、恐る恐るYちゃんが消えた場所の足元を覗き込みました。
すると・・・
Yちゃん「はよ助けてくれぇー!」
穴の開いた階段の下でYちゃんが悶絶してました。
穴に落ちたんですね、Yちゃん。('A`)
何かの木材にハマッているYちゃんを3人で救出。
泥だらけになってしまったYちゃんは、クツを片方無くしたと何度も叫んでいました。
もちろん帰りの車中、話題は終始Yちゃんの落下騒ぎに花が咲き、
幽霊話なんてどこへやら...。
まぁ、ケガも無く無事に帰って来たYちゃんでしたが、今回の出来事はほんの序章に過ぎなかったのです・・・。
つづく
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