肝だめし② | 炎の人生劇場

肝だめし②

~その②~


前回、穴に落下するという瞬間移動を披露してくれたYちゃん。

あの事件以来、地元では格好の笑いの的であります。


テレポーターの称号まで与えられる始末。


お気に入りだったクツを片方無くし、皆の笑い者にされたんでは、さすがのYちゃんも少々へコみ気味です。


しかし、そんな落ち込むYちゃんに名誉挽回のチャンスが訪れます。

再び『心霊スポット巡り』が有志によって企画されたのです。

前回の『チロリン村』では趣旨がずれてしまったため、今回は正当な肝だめしをと皆も意気揚々といった様子。

もちろんYちゃんも例外ではなく、違う意味で燃えています。


今回ミッションの対象となったのは、福岡県と佐賀県の県境の某所に位置する『廃病院』であります。


開院当時は地域医療の先端を担っていた総合病院でしたが、その繁栄もバブル崩壊の煽りを受けて終焉を迎え、現在では撤去の目途も立たないまま廃墟と化していました。

不気味にたたずむ荒れ果てた建物は、元病院という過去も手伝って次第に人が寄り付かないようになり、幽霊が出るといったウワサがたつのにもそれほど時間を要さなかったようです。


今回、その廃病院の情報を仕入れてきた仲間の話に、みんな息を飲んで耳を傾けます。


「まぁ、廃墟っつってもさ、病院の中はわりと形がそのまんま残ってるらしくてよ、手術室とか霊安室とかさ。」


手術室・・・霊安室・・・。

その無機質な響きに皆も震え上がります。


「でさ、その霊安室が最強でさ、病院で死んだ人たちの霊がウヨウヨいてよ、夜中になったら騒ぐらしいんだよ、助けてぇーとかなんとか・・・。」


Yちゃん「うわぁぁぁぁ!!((((*゚Д゚;))))」


テレポーター、声でかすぎ!」


『チロリン村』での一件以来、お化けにとても敏感なYちゃん。

こんな調子でリベンジは大丈夫なんでしょうか?


しかし、恐がっているのは決してYちゃんだけではありません。

ただでさえ普段から近寄り難い場所であるのに、ほぼ形を残したまま廃墟となった病院なんて誰が好き好んで行くんでしょう?


アホとしか言いようがありません。(;´Д`)


これが若さか・・・?





~それからそれから~


今日はとうとう決行の日。

僕も朝から気合いを入れ、夜に備えました。


待ち合わせの時間は午前1時。

ちょうど草木も眠る丑三つ時に現地スタート出来るよう、粋な時間設定であります。


いつもの仲間が全員揃ったところで、いざ出発。

約1時間の道のりです。


車内では、仲間の一人が今回の旅を盛り上げるべく素敵なアイテムを用意してくれていました。


「じゃーん!!」


彼が得意げにみせたのは5本のロウソクでした。


「これ人数分あるからさ!みんなで火点けて探検しようぜ!!」


「あ、ありがとう・・・(´Д`lll)」


みんな、あまりにも嬉しすぎて、顔が笑ってません。


ロウソクの火を灯しながら、深夜の廃病院探索。


素敵な夜になりそうです。



現地に着いた頃には、すでに午前2時を回っていました。


「なんか、いかにもって感じやなぁ・・・。」


誰かの言葉にみんな無言でうなずきます。

到着といっても正面に車を乗りつけたわけではなく、閉鎖された病院は周囲をぐるりと金網で囲まれており、唯一の進入経路は誰かが穴を開けた一箇所のみでした。

付近は草木が生い茂り、車で入れるのはここまでなのです。


車内ではすでにロウソクの使用が取り決められていましたので、みんな各自持参した懐中電灯は車に置いていきます。


「これ、火を点けてもすぐ消えたりしないかなぁ・・・?」


誰かが心配そうなか細い声をあげましたが、その日は不思議とまったくの無風状態でしたので、なんとかロウソクの心細い明かりでも問題無さそうでした。

消えたらまた点ければいいという事で、さっそくみんなで金網の穴へと侵入開始であります。


金網を越えた先には両側を身の丈ほどもある樹木がひしめく一本道。

例え5人分の明かりを合わせたとしても、ロウソクの火は僕らの足元を照らすのがやっとでした。

眼前に広がるのは不気味な闇だけ。

本当に廃病院などあるのだろうかと、皆一様に不安げな様子。

ロウソクの不安定な光が、ゆらゆらとそれぞれの顔を照らし出しています。

と、その時、Yちゃんがいきなり大きな叫び声をあげました。


「あ!!((((*゚Д゚;))))」


みんな一斉に凍り付き、恐怖の表情を浮かべます。

よく見てみると、目の前にかなり大きな大木が折り重なるようにして進路をふさいでいました。


「お、お前、大きな声出すなよ!!」

「ビックリしたやんか!!」

「おいおい、頼むぜ!」


みんなの反感に、気合いの掛け声と必至に言い訳を繰り返すYちゃん。


テレポーター健在であります。


かすかに笑いも起こり、少しだけ場がなごみましたが、病院を前にしてトラブル発生には変わりありません。

不自然なほどに太くしっかりとした幹を横倒しにして、まるで僕らの侵入を拒んでいるような気配さえ感じさせます。


しかし、ここまで来て引き返すなどもってのほか。

先に進めないかと検索した結果、大木の重なった一箇所に人一人通れるようなスペースが見つかり、なんとか続行する事が出来ました。


大木の通貨した後、今回の情報を持ってきた一人が浮かない表情で言います。


「オレが聞いた時は、あんな大きな木が倒れてるなんて言ってなかったんだけどなぁ・・・。」


かすかに震えるその声に、誰も答えようとはしませんでした。


それっきり無言のまましばらく進むと、狭かった道幅がだんだんと広がり始め、一行はとうとう廃病院の正面までたどり着いたのです。


「・・・・・・。(;´Д`)」


感動のゴール!とはいきませんでした。

恐怖におののく子供たち。

誰一人として、声を出す者はいませんでした。

さっきまで無風だったはずの風は、体にまとわり付くように生暖かい流れを取り戻し、ロウソクの火を静かに揺らしています。

このただならぬ雰囲気を、全員が同時に感じ取ったようでした。


壁には血が乾いたような真っ黒なシミがいたるところに尾を伸ばし、窓ガラスはほぼすべてに渡って割れていて、破れかけたたどす黒いカーテンが力なく垂れ下がっています。

屋上にかけて、3分の1ほどの部屋が瓦礫と化し、ベッドや棚などが無造作に転がっているのが地上からも月明かりで確認出来ました。

恐度は『チロリン村』の比ではありません。

みんな、あまりの恐ろしさに、足が固まってしましました。


「マ、マジでここ入るわけ・・・?」

「これはちょっとヤバ過ぎるんじゃないか!?」

「シャレにならん・・・。」


Yちゃん「もしかして・・・びびってんの?(|゚|∀|゚|)」


Yちゃんよせばいいものを、前回の失敗がよほど悔しかったのか、冷や汗を浮かべているくせに、みんなをあおっています。


「びびるか!!」

「行ったろやんか!!」

「お前、この前消えたくせに!!」


Yちゃん「ぐっ・・・!(*゚Д`;)」



かくして、戦慄の廃病院ツアーが幕を開けたのでした・・・('A`)




つづく






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